茶店妄想叙事詩

顔も知らない誰かの物語を執筆しています。

スタバもうそう叙事詩

街角のアリア

久々に1人でゆっくりと昼食が取れそうだ。しかも、いつもより時間に余裕がある。そう思い私は、少し離れたお店に行くことにした。薄暗い店内に木目調のアンティーク風のテーブルが並び、サラダにはクルトンが振りかけられ、カレーライスのお米が白くない、私にはおしゃれすぎるお店である。お店を後にして、残り時間をどうやって過ごすか考えていると、コーヒーが飲みたくなったので、これまた、おしゃれな某コーヒーショップに立ち寄った。

 私は、注文をしたコーヒーを受け取り、窓辺の席に腰掛けた。すると、レジ前の列の方から、「安くて歌えるなら、それで良い」という女性の声が聞こえてきた。

 

 それでは、彼女の人生を少しだけ、勝手に妄想してみようと思う。

 

 突然だが、皆様は電話ボックスに入ったことはあるだろうか?無論、スマホが普及した、現世においては、既に不要なものなのだろう。今回は、そんな電話ボックスに新たな需要をもたらそうとしている、1人の女性についての物語である。

 


 1人焼肉、1人旅、1人水族館、1人映画、1人将棋。お一人様で何かを楽しむことは、もはや恥ずかしいことではない。優雅な時間を過ごすためには、1人の世界も大切なことであろう。そんな彼女も、休日は1人カラオケを楽しむことで、雅やかなひとときを堪能していた。

 ただ、1人カラオケのつらい所は、割り勘ができないことにある。小さな部屋に10人くらいの高校生が入って行くのをよく見かけると思うが、おそらく彼らは1人数百円の料金で済んでいるのだろう。残念ながら彼女には、それはできない。土日は朝から晩まで歌い尽くしている新入社員の彼女にとって、数千円の出費は痛いものである。

 


 いつもと変わりない休日の朝、今日も行きつけのカラオケで1日を謳歌する予定だ。コーヒーを沸かしながら、出かける準備をしていると、テレビから少し気になるニュースが流れてきた。「ニューヨークで最後の電話ボックスが撤去されました」と男性アナウンサーが話している。電話ボックスなんて入ったことがあっただろうか。そんなことをぼんやり考えていたが、今は出かける用意をしなければならない。誰かに会う予定は特に無いので、最低限のメイクを施し、誰かが見ているわけでも無いので、適当な洋服に着替えて、玄関の扉を開けた。

 


 休日の街は、いつもより賑わいがある。平日の朝とは、また違う雰囲気だ。そんなことを思いながら、目的地に向かっていると、歩道の脇に電話ボックスがあることに気がついた。普段なら何も思わず素通りするところだが、今朝のニュースの所為で足を止めた。別に用があるわけでもないが、この電話ボックスも撤去される日が来るかもしれないと、何故か少し悲しくなり、彼女は中に入った。

 

 中は何も変哲のない電話ボックス、大学受験の赤本よりも分厚い電話帳まで置いてある。今時、誰が使うのだろうか。彼女は電話帳をペラペラと開き始めた。

   1ページ目に書いてある文字は、「アニソン特集」

   「なにこれ?」彼女は思わず声に出して、顔を顰めている。連絡先ではなく、曲名が書いてあり、一つ一つに電話番号らしきものが宛てられている。彼女は十円玉を取り出し、受話器を耳に当てた。恐る恐る曲の電話番号を押すと、音楽が流れてきた。しかも、歌詞は聴こえてこない。カラオケだ、、、彼女は驚いた。

 

 友人に電話ボックスのカラオケのことを話すと「え?でも、歌ってるところ通行人に丸見えじゃん!」と言われた。彼女は「安くて歌えるなら、それで良い」と笑った。

 

 一体誰が、こんな物を設置したのでしょうか。皆さまのご近所にある電話ボックスももしかしたら、電話ボックスではないかもしれません。後から聞いた話ですが、電話ボックスの撤去を阻止するために、全国電話ボックス保護団体という組織がいるとかいないとか、、、