茶店妄想叙事詩

顔も知らない誰かの物語を執筆しています。

スタバもうそう叙事詩

風に愛を乗せて

 ベランダで煙草を吹かしながら黄昏れるには、やや肌寒く、少し風の強い夕暮れ。暖かくなってきたとはいえ、落日してしまえば、太陽も威厳がない。私は風から逃げるように某コーヒーショップへ入店した。

 注文を終えて、空いている席を探していると、奥のテーブルで会話をしている6人の女性がいるのが目にとまった。近くの席に座り、視線を横にやると、なんと6人全員のカップに「Lovin'You」とメッセージが書いてあるではないか。スマートフォンを片手に、写真を撮ってるようでもある。インスタにでも投稿するのだろうか。私よりも“今どき”だ。

 

 それでは、彼女たちは一体何者なのか、勝手に妄想してみようと思う。

 

 現代社会において、何が最も重要視されるか。それは“お金”である。人生100年時代と言われ、やれ貯金だの、やれ年金だの、口を開けば金の話しかしていない。皆、年2回のボーナスと、年末の宝くじが楽しみで生きている。本屋では、ビジネス書や啓発本が売れ、恋愛小説なんてものは、もはや歴史の産物と言っても過言ではない。

愛なんて、もうこの世界には要らないものなのかもしれない。

 そんな時代に終止符を打つべく立ち上がったのが、愛布教団体である。

 彼女たちはは世界に愛思想家を増やし、団体メンバーを増やすことを目的としている。活動内容は様々で、高層ビルで働くビジネスマンが嫌でも目につくよう、全フロアのドアにスプレーで愛の文字を書く。愛の文字が書かれたビラを街頭で配る。集合住宅の郵便受けに愛の文字が書かれたチラシを投函する。国家議事堂の前で、プラカードを掲げてのデモ活動。もちろん愛の文字が書かれている。他にもラジオの電波ハッキングを企むなど多岐に渡って活動しているらしい。

 ここまで布教活動が明るみに出ると、黙っていないのが反愛主流派である。彼らは、愛布教団体制圧を目的として結成された存在で、お互いに壮絶な戦いを繰り広げている。

 各地の高層ビル内に突如現れた、愛の文字を消す清掃のおばちゃん。ビラ配りに対抗すべく、街頭ティッシュ配りのバイトをしている大学生。郵便受けに入っていた謎のチラシを丸めて捨てている、新聞を取りにきたおじさん。国家議事堂でデモ活動に溜息を吐きながら対応している警備員。その全てが、おそらく反愛主流派のメンバーである。ラジオのハッキングはそもそも知識がないため断念したという情報もある。

 そんな反愛主流派の猛攻撃をを掻い潜り、今日はコーヒーショップの店員さんの力を借りながら、SNSで布教活動をしている。

 

 読者の皆さまにとって“愛”とはなんだろうか?カップに「Lovin' You」と書かれたスタバのインスタ投稿を探しながら、じっくりと考えてみてほしい。