茶店妄想叙事詩

顔も知らない誰かの物語を執筆しています。

スタバもうそう叙事詩

行き先は曖昧で

 今日も、電車の中は満員だ。外は雨が降っていて、窓ガラスに打ち付ける水滴をぼんやりと眺めていた。いつもより湿度の高い車内からいち早く抜け出したい。そんなことを思った私は、途中の駅で下車して、某コーヒーショップに寄った。ひとしきりの注文を終え、空いている席の椅子に腰掛けた。

 アイスコーヒーのカップに付いている水滴をついつい弄ぶことは皆様にもあるのだろうか。そんなことをしていると、隣の席から会話が聞こえてきた。「2階建バスに乗ってみたい」という女性に対して、もう1人の女性が「2階建バスね、、、」と少し笑みを溢した。2人で旅行でも行くのだろうか。

 

 では、彼女の人生を少しだけ妄想してみようと思う。

 

 あれは夏の暑い日のこと。当時、彼女は職場の些細ないざこざに嫌気が刺し、連休を取っていた。上司からは、人手が足りない、納期が間に合わない、などと少なからず文句を言われたが、知ったことではない。とにかく今は仕事のことは忘れよう。そう思いながら、自分以外、誰も乗っていない列車から外を見つめている。

海沿いを走るこの路線。目的地など決まっていない。線路は続くよどこまでも、、、という歌があったような気もする。

 物思いに耽っていると、遠くに赤い何かがあるのを見つけた。次の駅はすぐそこにある。今日は絶品トロトロチーズピザが太陽光で焼けるほどの猛暑である。火を使わない、SDGsに配慮したミシュラン3つ星のイタリアンレストランを開業できるほどであろう。そんな暑さの中、彼女は降りるのを躊躇ったが、好奇心に勝つことは出来なかった。

 線路と並行して車道が整備されている。整備されていると言って良いかわからない道ではあったが、赤い何かを目指して歩いた。暫く歩くと、大きな赤色の2階建ロンドンバスが見えてきた。彼女は額の汗を輝かせ、バスを見上げた。なぜこんなところにロンドンバスがあるのか。バス停も近くにはない。人はもちろん、車も殆ど走っていない。

 惹かれるままにバスへ乗ろうとすると、若い男性が1人運転席から「何処まで行く?」と声をかけてきた。少々言葉遣いは気になるが、終点の場所を尋ねた。しかしどうやら、行く宛は決まっていないらしい。不思議なバスだ。続いて彼女は「何処までも行けるの?」と問いかける。男性は「君がそう思えばね」と少し笑みを溢した。